■第13回関東部会記
日時 2016年5月14日(土)
場所 武蔵野大学有明キャンパス

1. はじめに
 第13回関東部会が武蔵野大学有明キャンパスを会場に開催された。齋藤真哉部会長の挨拶後、部会長(第1 報告)及び鷹野宏行氏(第2・3報告)の司会により研究報告が行われた。。

2. 部会報告
■第1報告
 榮田悟司・鷹野宏行氏(武蔵野大学)「産後ケア施設をめぐる制度・運営・組織形態研究序説」
 榮田・鷹野両氏の報告では、出産直後の産褥期における母子に対する産後ケア施設の制度設計を検討するために、今回は世田谷区が武蔵野大学に土地を提供し事業運営を委託している「武蔵野大学付属産後ケアセンター桜新町」を題材として採り上げ、産後ケア施設の実態を明らかにし、法的整備の必要性が検討された。
 まず、少子化対策が社会問題となっている昨今にあって、産褥期における母親の精神的・肉体的ケアの重要性が指摘された。そして、現在では多くの自治体等において、産後ケア事業や産後ケア施設への補助が行われるようになっているが、産後ケア事業・施設の認知度、自治体の補助、施設等の利用率に地域差が存在すると同時に、産後ケア・サービスそのものにも大きなバラツキがあることが問題の所在として採り上げられた。
 そして、今後の産後ケア施設の拡充のために課題となる法的な整備についての検討が加えられた。今回の報告はタイトルにもあるように「序説」であり、今後、自治体へのアンケート調査、産後ケアの先進国といわれる韓国の産後ケア施設への訪問や実態調査などを行い研究を取りまとめていきたいとのことであった。
■第2報告
 金子良太氏(國學院大學)「非営利組織における規模別の会計基準導入の可能性」
 金子氏の報告では、非営利組織には中小組織が多く、会計規制においては規模別の配慮が必要であるとの問題意識から、ニュージーランド(以下、NZ)で導入された非営利組織の規模別会計を例として挙げ、規模別会計基準導入の可能性の検討が行われた。
 まず、NZの非営利組織の会計について、歴史的経緯を含めた概要が紹介された。NZでは2000年代に入ると企業会計に基づくセクター中立会計が、そして2007年からはNZ版IFRSが非営利組織に適用されていたが、2011年にその廃止が決定され、2015年4月から「事業費用」を基準とする非営利組織の規模別会計基準が導入された。なぜこのような会計枠組みの大幅な変更を伴う改革が行われたかについて、従来の会計基準は非営利組織に順守されておらず、順守される規制構築の必要性があったと報告者の見解が明らかにされた。
 次いで、事業費用の金額により4区分された規模別会計基準の概要が紹介され、各区分での財務報告の実態が明らかにされた。
 最後に、公益法人会計基準における「中小組織版」会計基準の検討結果を踏まえ、法人類型別に非営利組織の会計基準が設定されているわが国の現状で、NZのような規模別会計基準の策定の是非などが議論された。
■第3報告
 千葉正展氏(独立行政法人福祉医療機構)「社会福祉法人制度改革の背景と諸問題」
 千葉氏の報告では、近時の社会福祉法人制度改革の背景及び内容の概括をし、制度改革で未解決となっている課題の検討が行われた。
 まず、制度改革の背景として、次の5 つが挙げられた。①会社法の創設や公益法人制度改革等が進む中で、社会福祉法人の他の法人と比較したガバナンスレベルの相対的低下、②世論などにおける社会福祉法人の内部留保に対する批判、③社会福祉事業から「社会福祉事業と福祉サービス」という新しい公共概念(福祉の範囲の変化)、④公益法人等に対する法人税課税の議論、⑤不適正事案の発生。 そして、「経営組織のガバナンスの強化」、「事業運営の透明性の向上」、「財務規律の強化」、「地域における公益的な取組みを実施する責務」、「行政の関与のあり方」という視点で制度改革が進んでいることが指摘された。
 制度改革における課題として、①会計監査人監査の費用対効果、②社会福祉充実残額の算定、③社会福祉充実事業、地域における公益的取組の責務と財源、④法人の経営管理機能(ガバナンス)強化と財源を採り上げて検討が行われた。特に、世論の内部留保批判に対応するためには、社会福祉法人の余裕財産の明確化が必要であり、そのために「社会福祉充実残額」という概念を用いて分析が行われた。

文責:尾上選哉(大原大学院大学)


■第12回関東部会記
日時 2016年3月21日(月)
場所 横浜国立大学

1. はじめに
 非営利法人研究学会第12回関東部会が、2016年3 月21日(月)14時より、横浜国立大学 みなとみらいキャンパス(神奈川県横浜市 ランドマークタワー18階)において開催された。準備された座席は約20人の参加者でほぼ満席となり、尾上選哉氏(大原大学院大学)の司会のもと、2つの報告が行われた。

2. 部会報告
■第1報告
 古市雄一朗氏(大原大学院大学)「「公益認定取消に関する諸問題」
 古市氏により、最近公益認定を受けた公益社団・財団法人における認定取消に関する状況が紹介され、問題提起がなされた。 まず、公益認定に当たっての主な基準(公益目的事業に必要な経理的基礎・技術的能力があるか、法人関係者等に特別の利益を与えていないか、公益目的事業比率が50%以上か等)、公益認定が取り消される事由(必要的取消事由・任意的取消事由)、認定取消が行われた場合の処分(一般法人への移行または公益目的取得財産残額相当額の寄附)について説明された。 引き続き、近年の公益認定取消に至った4つの事例が紹介された。その中で、賞罰規程により一部社員の議決権が一切行使できなくなっていた事例、助成金の不適正受給、(特定業者に独占販売権を与える等の)特別利益の付与、公益目的事業比率の未達成、経理的基礎の不足、変更認定を受けずに公益目的事業の内容を変更、社員総会の不開催、文書の偽造や不実記載、預託金の流用といった事例が見られた。
 これらに対応して、古市氏からは公益認定を取り消された法人が一般法人として存続し続けることの是非、取消は極めて重大な法令違反を原因としており法人の自立を妨げるような過剰な監督とは言えないことが示された。そして、公益社団・財団法人が税優遇を受けるなか、公益認定等委員会等による監督を充実させる必要性が示された。
 フロアからは、これらの不祥事に関連して監事や公認会計士による監査の役割についての議論提起がなされた。現行制度での残余財産を寄附させる等のペナルティは残余財産がほとんどないか、マイナスになるような団体に対しては十分に機能しないため、新たな規制の必要性についての質問もあった。また、限られたリソースで効率的な監督をしていくための方法についても提起があった。監督の強化は公益法人の自主的な運営を妨げることにもなりかねず反対意見も予想される中、監督を充実させていく合理性をどのように説明していくのかなどの質問もなされた。
■第2報告
 齋藤真哉氏(横浜国立大学)「非営利法人における会計主体―余剰計算と貸借対照表の表示―」
 非営利組織は、貨幣資本増大以外の特定のミッションを有し、持分権者は不在であり企業とは会計の目的が異なる。このような前提のもと、齋藤氏より3 点の問題提起があった。①持分概念が成立しない非営利法人にあっては、誰の立場で会計が行われるのか?②余剰計算として、誰に帰属する余剰を計算し、その余剰(額)は何を意味するのか?③持分権者が明示的に存在しない場合に、負債と純資産とを区別する意味はあるのか?
 これらの問題について、齋藤氏よりさまざまな会計主体論、公益法人会計基準、社会福祉法人会計基準、学校法人会計基準等を参照しながら詳細な理論的考察が示された。結果を要約すると次のとおりである。①非営利法人会計の会計主体は、法人主体論( entitytheory)によらざるを得ない。法人主体論では、非営利組織は各種利害関係者からは独立した主体として捉えられる。出捐者・寄附者は財産権を放棄した者であり、主体たり得ない。債権者等もまた、主体たり得ない。②法人主体論に基づいた場合の損益計算は、法人に残留する拘束性のない財産額の増減計算となる。③法人主体論に基づいた場合の負債と純資産について、両者を区別する必然性は生じない。  フロアからは、理論的な発表であることを反映して、報告で登場した様々な概念に対する活発な質疑が行われた。また、負債と純資産を区分する必要性がない場合に、貸借対照表の貸方でどのような区分が行われるかなどの質問があった。

 第12回の部会は、第1 報告が実例に基づいた問題提起となり、第2報告は普段は見過ごされがちな非営利組織会計の背景にある理論について深く考えるきっかけとなった。参加した研究者、実務家双方にとって互いの理解や問題意識を共有することができる大変実りのある部会であった。

文責:金子良太(國學院大学)


■第9回関東部会記
日時 2015年7月18日(土)午後2時〜
場所 神奈川大学横浜キャンパス

1. はじめに
 非営利法人研究学会第9回関東部会が、2015年7月18日(土)14時より、神奈川大学横浜キャンパス(神奈川県横浜市)の3号館201教室において開催された。準備された座席はほぼ満席となり、開催校の岡村勝義氏の司会のもと、3つの報告が行われた。

2. 部会報告
■第1報告
 永島公孝氏(税理士)「法人税の収益事業課税に関する裁判例を踏まえて」
 公益認定を受けた公益社団・財団法人においては、多くの税制優遇があり、その分収支相償等の規定を遵守することが求められている。しかしながら、公認会計士による監査や内閣府・都道府県の立入検査では不適切な特定費用準備資金・資産取得資金の計上等を是正することが難しい状況にあることが紹介された。
 公益社団・財団法人が税の優遇を受ける中、一般社団・財団法人等他の非営利法人の各種の税負担は大きい。このような中、新たな裁判例の中で「収益事業」の課税範囲を広げる動きがあることも報告された。
 フロアからは、特定費用準備資金等と収支相償原則との関係、異なる法人類型間での課税の不公平に対する考え方など多岐にわたる質問があり、引き続き活発な議論が行われた。
■第2報告
 早坂毅氏(税理士)「市民ファンドの財産管理と社会的責任」
 ある認定NPO法人における横領の事例と、発覚後の第三者委員会による調査内容が紹介された。
 内部統制が不十分で横領が発覚するまでに時間がかかり、発覚した後に当該法人より「お詫びと報告」が公表されるまでさらに80日程度かかっていたという。また、横領は、当該法人の財産の毀損にとどまるものではない。法人に寄附をしていた団体から資金提供をストップされ、さらに返還を求められたり、発覚後に法人運営の担い手が見つからなくなったり、と付随して多くの問題を生じさせている。
 非営利組織における財産管理の興味深い事例であり、フロアからは各々の体験をふまえた活発な質疑応答が行われた。
■第3報告
 江田寛氏(公認会計士)「NPO法人会計基準委員会で検討している項目」  2010年にNPO法人会計基準が公表され、そのメンテナンスを目的としたNPO法人会計基準協議会が本年より開催されている。その中で問題となっている項目として、(貸借対照表貸方の)指定正味財産と(借方の)特定資産との関係について報告された。
 指定正味財産に対応する資産でも特定資産にするか否かは法人のガバナンスに任されるべきとの江田氏の意見に対し、様々なコメントがあった。
 続いてNPO法人の役員報酬と開示に関する報告がなされた。NPO法人の役員報酬も中小企業と同様、役員固有の業務(役員報酬)と使用人としての業務(給料手当)それぞれに相当する部分が含まれる。役員報酬は理事会等の承認等規制を受けるが、給料手当が規制を受けないとガバナンス上、抜け道が生じてしまう。
 そこで、役員報酬の金額や性質について財務諸表で注記することが必要ではないかとの提案がなされた。発表後、部会の予定終了時間を過ぎても活発な議論が続けられた。

文責:金子良太(國學院大学)


■第3回関東部会記
日時 2014年5月10日(土)午後2時〜
場所 武蔵野大学有明キャンパス
 非営利法人研究学会第3回関東部会が、2014年5月10日(土)14時より、オープンして間もない武蔵野大学有明キャンパス(東京都江東区)の、お台場を一望できる1−13A会議室において開催された。
 なお、本関東部会は昨年9月の全国大会において設立された常設の地域部会の1つである。

【研究報告】
 関東部会長の齋藤真哉氏(横浜国立大学)の挨拶に引き続き、開催校の鷹野宏行氏(第1報告)や齋藤真哉氏(第2報告)の司会のもとで、2つの報告が行われた。

第1報告
「NPO法人の新認定制度に関する一考察」
菊池遼氏(東北大学大学院経済学研究科博士前期課程)
 近年、NPO法人の認定制度に関してパブリック・サポート・テストに絶対値基準が加わるなど大きな変化があった。菊池氏は、認定NPO法人4団体(仮認定NPO法人・仙台市認定NPO法人・仙台市認定NPO法人・国税庁認定NPO法人)に対してインタビュー調査を行い、その結果を報告した。 制度変更により認定が国税庁ではなく都道府県や政令市により行われるようになったことによる影響や、事業規模の小さい団体のほうが認定を受けやすい現行の制度に対する問題意識が明らかにされた。また、認定やその後の対応を巡ってのNPO法人の実態報告は、大変興味深いものであった。最後に、非営利法人に対する最近の課税強化の動きについても報告がなされた。 これに対して、参加者からはNPO法人のみなし寄附金制度の重要性や、NPO法人制度そのものの問題点など、さまざまな意見や指摘があり、活発な議論が行われた。

第2報告
「医療法人会計基準の公表と課題」
鷹野宏行氏(武蔵野大学)
 医療法人の非営利性はどこに認められるのか、医療法人会計の問題点や特徴などについて、幅広い視点から報告がなされた。報告の中で、四病院団体協議会の会計基準策定小委員会が平成26年2月に公表した「医療法人会計基準に関する検討報告書」(https://www.hospital.or.jp/pdf/06_20140226_01.pdf等より参照できる。)が紹介され、その内容についても議論が行われた。 報告後に行われた質疑応答においては、まず医療法人の非営利性や会計について各種の質疑応答がなされ、前述の検討報告書が現行の公益法人会計基準に準じている点が多いこと、またその内容や強制力、監督官庁とのかかわり等を巡って鋭い質問があった。 その後、医療法人という枠組みを越えて、そもそも非営利組織とは何かという学会の根幹たりうる内容について問題提起があった。それについて、我が国だけではなくイギリスなどの事例も含めて多くの参加者がコメントし、活発な議論が行われた。議論は予定終了時間を過ぎても続いた。

■第1回関東部会記
日時 2013年12月14日(土)午後2時〜
場所 大原大学院大学
 非営利法人研究学会第1回関東部会が、201312月14日(土)に大原大学院大学(東京都千代田区)において開催された。 本関東部会は昨年9月の全国大会において設立された常設の地域部会の1つである。地域部会の目的は「会員により一層の研究機会を提供し、会員相互の切磋琢磨により、非営利法人研究の更なる発展に資する」(非営利法人研究学会地域部会設立趣意書より)ことにあり、関東の他に北海道、中部、関西、九州の部会が設立された。

【研究報告】
 関東部会長の齋藤真哉氏(横浜国立大学)の挨拶に引き続き、鷹野宏行氏(大原大学院大学)の司会のもとで、2つの報告が行われた。

第1報告水谷文宣氏(関東学院大学)
「キリスト教は寄付の促進要因か阻害要因か-寄付文化とマタイ6:2〜4?」  アメリカの民間非営利組織は寄付文化によって支えられており、その寄付文化はキリスト教の価値観に基づいているとの認識を出発点とし、キリスト教の聖典である聖書のマタイの福音書6章2節から4節における「施し(寄付)」についての教えを題材として、キリスト教の価値観は寄付の促進要因であるのか、もしくは阻害要因であるのかをファンド・レイジングの観点から検討した。寄付者の寄付目的(例えば、名誉や満足感の獲得など)や聖書解釈の如いかん何によって、促進要因とも阻害要因ともなりうることから、この点を理解した上でのファンド・レイジングの手法の開発が必要で寄付文化の起源を問う水谷氏 あるとの主張がなされた。
第2報告齋藤真哉氏(横浜国立大学)
「非営利法人の特性に係る疑問〜持分権者不在の意味〜」
 非営利法人の特性として「非営利性(貨幣資本増大以外の特定のミッション)」と「持分権者の不在」の2つが挙げられるが、これらの特性は、実質的には、すべての非営利法人には該当せず、非営利法人の剰余ないしは残余財産に対する実質的な請求権者が存在する場合があるのではないかとの問題意識から、①一般社団・一般財団法人における解散時の寄付の問題、②非営利法人への出捐者等が当該法人の役員等に就任し、役員報酬等の受領による投下資金の回収可能性の問題、③出捐者が、取引先として取引価格の中に剰余の配分を含める可能性の問題を検討し、実質的な持分権者が存在することを明らかにし、公益性の判断基準となっている「非分配性」について再検討の必要があることの指摘がなされた。
 各報告後に行われた質疑応答においては、報告者の報告について参加者から忌憚のない質疑が投げかけられ、報告者と参加者との活発な議論が交わされた。

【部会会議】
 研究報告の後、第1回目の関東部会開催ということもあり、部会長の齋藤氏より地域部会の設立趣意説明が行われ、関東部会の運営の方針等が話し合われた。関東部会は年に3〜5回の開催を予定しており、3回は研究報告の場として、2回は非営利法人の運営者などの講演会の開催が提案された。